安定同位体スコープで覗く海洋生物の生態―アサリからクジラまで

安定同位体スコープで覗く海洋生物の生態
安定同位体スコープで覗く海洋生物の生態―アサリからクジラまで

I. 安定同位体比手法とは
  1章 安定同位体比分析を始める人たちへ(高井則之・富永修)
  2章 濃縮係数の変動性-魚類を例として(石樋由香・横山寿)
  3章 安定同位体比を用いた餌料源の推定モデル(笠井亮秀)
  4章 浜名湖におけるアサリの食物源 (青木茂)
  5章 河口汽水域を利用する魚類の食物源(伊藤絹子・掛川武)
  6章 干潟におけるシギ類の食物源としての底生微生物皮膜(桑江朝比呂)
II. 資源生態研究への応用
  7章 小型浮魚類の生態研究への応用-イワシ類を中心に(田中寛繁)
  8章 溯河性魚類による陸域生態系への物質輸送(帰山雅秀・南川雅男)
IV. 回遊機構の推定
  9章 有明海筑後川河口域におけるスズキの初期回遊生態(鈴木啓太・田中 克)
  10章 海鳥類・海亀類の回遊と摂餌特性(南浩史・清田雅史・宮本 波)
  11章 北西太平洋におけるミンククジラの摂餌回遊(三谷曜子・坂東武治)

安定同位対比は、自然界の物質循環を解析するための指標として、生態学・海洋学など、各方面で活用されていますが、応用例を総括した書は少ない。そうしたことにふまえ、本書は応用例を豊富に取り入れた安定同位体研究の入門書として出版されています。

元素の同位体比が示すもの

炭素安定同位体比は、食性の履歴
炭素同位体比は、動物の食物の履歴として重要です。 例えば牛や、家畜動物が食べた餌(牧草、穀物飼料等)は、動物の組織を構成する分子に取り込まれます。 このため、動物の組織の炭素安定同位体比は、食性を示す重要なものです。 炭素同位対比を分析すれば例えば糖類の由来(異性化糖か、はちみつ等のC3植物由来の糖かといった由来の違い)や動物の飼料(トウモロコシか、牧草か)の履歴などが明らかになります。 また同じC3植物でも生育状況での環境ストレスによる差が認められ、生育地域の特徴ともなります。
窒素安定同位体比は、窒素源の由来
窒素安定同位体は、土壌中の窒素の由来を示します。 そこで植物の窒素安定同位体比は、土壌窒素の由来を示す指標となります。 この為、農法の判別などには有効な指標となります。 ただし、根粒菌などの空気中の窒素を固定する細菌を有するマメ科植物の場合は、窒素源は、空気中の窒素と土壌中の窒素の両方に依存します。 この場合、空気中の窒素固定による窒素同位体比は、大気と同じという事になりますから、有機肥料などの影響は受けにくくなるので、注意が必要です。
酸素・水素安定同位体比は、生育環境・地域の履歴
一方、植物の組織を構成する分子中の酸素は、生成過程で、植物体内の水分子中の酸素が使われます。 つまり、植物の組織中の酸素安定同位体比は、植物が育った環境の水の安定同位体比を引き継ぎます。 このため、同じ植物の品種でも育った地域の水の安定同位体比の特徴が体内に残ります。 動物も同様に飲用水として取り込む環境中の水が体組織の分子に取り込まれます。

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