タイラギ養殖成功の先には?

今月に入り報告書の執筆でドタバタしているzoobioです、こんにちは。

 気になるニュースを見かけたので、発信してみます。

タイラギ養殖に成功 水産総合研究センター :佐賀新聞

 有明海での漁獲量が激減している二枚貝「タイラギ」の養殖に、水産総合研究センター西海区水産研究所(長崎市)などの研究チームが成功した。漁場環境が悪い海底を避け、ネットなどで海中につるす「垂下養殖」によって稚貝から出荷サイズまでの生産に成功した。3年後の実用化を目指している。

 ○タイラギなど貝類の養殖研究へ 佐賀県

有明海の海況異変に伴い、魚介類の漁獲量が激減する中、佐賀県はタイラギやアゲマキなど貝類を中心に水産資源の回復に向けた養殖研究事業に取り組む。2月定例県議会に関連予算として1億6000万円を計上、有明水産振興センターが2009年度から3年をかけて技術の確立を目指す。

県はタイラギの稚貝が立ち枯れ斃死(へいし)しにくいとされる干潟の浅瀬に移す方法での養殖を目指す。漁場の海底改善についても、凝固する可能性がある覆砂による改善ではなく、稚貝が着底しやすいモガイの殻散布と耕うんによる改善を模索する。ともに技術が確立されれば、大規模な養殖の可能性が広がるという。

激減タイラギ “お引っ越し” 有明海 稚貝1万6000匹で実験 佐賀、長崎県

有明海で激減している大型二枚貝タイラギの増殖へ、佐賀、長崎両県が連携し、5月にも大規模な天然稚貝の移植実験に乗り出すことが12日分かった。夏場に有明海で発生する酸素濃度が極端に低い「貧酸素水塊」がタイラギ死滅の要因とみられており、実験では、統計的に貧酸素水塊発生が少ない海域4カ所へ、稚貝約1万6000匹を移植する。

タイラギはどんな貝?

タイラギは二枚貝の一種で、10m以深の砂質海底に生息しています。形は写真のように三角形で殻長30cm以上、殻高20cm以上に達する大型種です。

タイラギ

巨大な貝柱!タイラギ貝 35cm前後 1枚

藻場周辺に生息するタイラギの様子は1分20秒あたりからです。

よく分からなかった方もいるかもしれませんが、逆三角形を海底にぶっ刺した格好で生息していまして、そのため海底上に出ている部分にはよくフジツボが付着している個体も多く見かけます。(こちら参照)

普段は刺身や寿司でよく食べられていまして、ほかにはバター焼きや天ぷら食べるとうまいらしいです。(タイラギ検索結果

タイラギは減少している?

そんなタイラギですが、ニュースの記事でもあったように、漁獲量は確実に減少しているとのことです。東京湾では、数十年前までは採れていたものの、今はまったく採れなくなっているようです。現在の産地としては、三河湾、播磨灘、備讃瀬戸、伊予灘ぐらいで、有明海では、諫早湾のギロチン以降採れなくなったようです。

各地漁獲量減少の要因はそれぞれだと思いますが、思いつくものが並べてみます。

1.海砂採取の影響

瀬戸内海に限ってのことかもしれませんが、海砂採取によるタイラギを含めた底生生物の生息環境の減少が懸念されています。現在では瀬戸内海の海砂採取は全面禁止されていますが、その代償は大きく今後の生態系再生を見越した長期的なモニタリングが望まれています。

海砂採取、全面禁止へ-徳島新聞
海砂採取-追跡-広島新聞
海砂採取の全国的傾向(PDF)

2.貧酸素水塊の影響

いわゆる都市を背景に持つ閉鎖的な海域(有明海や東京湾など)での問題ですが、タイラギに限らず底生生物全般に対して影響を及ぼす貧酸素水塊は大きな課題の一つです。

熊本大学研究シーズ集->タイラギ斃死の原因解明と養殖技術の開発
溶存酸素濃度の低下に伴うタイラギの行動の変化
漁業者苦境変わらず…3季ぶり再開の有明海タイラギ漁

3.ナルトビエイの食害

 アサリ、タイラギなどの二枚貝を好み、バリバリと噛み砕く歯を持つエイの一種です。元々は九州以南に多かったナルトビエイが、温暖化に関連してかどうか明確には分かっていませんが瀬戸内海にも多く定着しつつあります。冬場の水温上昇などが影響しているとも言われています。

タイラギ食べる海の“厄介者”、メタボに効果
山口県内海の生態系が異変
大分の海と温暖化 7   ~大食漢のナルトビエイ~

 

3つほど一般的に言われている要因を並べてみましたが、その真意については分かっていません。水産試験場の方に話を聞いたところ、採れたり採れなかったりと年ごとに変動が大きいようで、漁師さんによる採りすぎの影響も懸念されているようです。それに加えて浅場に生息していたタイラギは採りつくしてしまって、最近では深い水深まで漁師さんが採りにいっているということもおっしゃっていました。これを聞くと、上に並べた3つの影響はあたかも環境問題にクローズアップしていて、漁獲圧の影響は無視されているような気がしてなりません。

タイラギの養殖・・・その先

上で書き連ねたようにタイラギが採れなくなったことは確かなようです。冒頭でのニュースで取上げられている研究では、現在養殖されているカキのような垂下式に似たシステムを想定しているようです。カキの養殖では、植物プランクトンを食べて成長しますが、富栄養化で問題となる懸濁物をものすごい速度でろ過するために一見浄化に優れたように見える一方で、海底に排泄物を溜め込む悪い一面も持っています。その結果、カキ養殖場では底質悪化やそれに伴う貧酸素化などの問題が生じています。もちろんタイラギもカキと同様の問題が発生する可能性はあります。

また、干潟にタイラギを移植する方法も実験的に検討されているようです。さらにタイラギが生息しやすいように干潟を耕うんで改良することも考えられているようです。このことはアサリ資源回復のために同様の方法がとられていますが、アサリにしてもタイラギにしても他の生物への影響は的確に評価されているのでしょうか。あまりにも横暴な方法のような気がしてなりません。

そのような養殖技術も一部では大事ですが、それよりも減少の主要因をはっきりさせること、本来生息していた場の再生・修復、そのための技術開発に力を注ぐべきじゃないでしょうか。みんなが幸せになれる方向に進んでいくことに精進しつつ、おいしくタイラギを食べたいものです。

※不快に感じた方がいらっしゃいましたらごめんなさい。

タイラギ検索結果

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